脳の健康のために僕が食べているキノコ

『Nature Aging』に掲載された新しい研究で、認知機能の良好さやアルツハイマー病リスクの低さと関連する、あまり知られていない栄養素が見つかりました。意外なことに、その栄養素を豊富に含むのは、美しい黄色のキノコです。ニック・ノーウィッツ(Nick Norwitz, MD PhD)
Nick Norwitz 2026.10.23
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ときどき、読んだことをきっかけに、食卓に並ぶものが変わる論文に出会います。

最近『Nature Aging』に掲載された今回の論文も、その一つでした。そして今回の食べ物はキノコ。それも、ある特定のキノコです。

ここで正体を明かしてしまってもいいのですが……それでは面白くありませんよね。

その答えにたどり着くまで、少しお付き合いください。まずはデータを一緒に見ていきましょう。

英文の和訳

英文の和訳

研究の大きな目的は単純でした。血液中のどの代謝物が次のことと関連しているのかを調べることです。

  • 認知機能が良好であること

  • 脳の容積が大きいこと

  • アルツハイマー病のリスクが低いこと

そこで研究者たちはまず、中年の成人1,082人を対象に、血液中の991種類の代謝物と認知機能の指標やMRIで測定した脳容積との関連を調べました。

認知機能または脳容積と関連する代謝物を絞り込んだあと、別の独立した集団で結果を検証しました。さらに、同じ代謝物が、その後のアルツハイマー病の発症とも関連するかを調べました。

つまり、筋の通った一つのつながりを探していたのです。複数の集団を通じて、認知機能の良好さ、脳容積の大きさ、アルツハイマー病リスクの低さと、一貫して結びつく代謝物はどれなのかと。

ただし、これはまだステップ1にすぎません……。

英語表記の図を日本語訳したものです。 

英語表記の図を日本語訳したものです。 

ステップ2では、それらの代謝物のうち、生活習慣、薬、食事などの変えられる要因が、実際に影響しうるものを調べました。

こうして、パズルのピースを組み合わせていったのです。

そして、一つの分子が浮かび上がりました。エルゴチオネインです。

エルゴチオネインとは?

エルゴチオネインは、抗酸化作用と抗炎症作用を持つ、硫黄を含むアミノ酸です。

興味深いことに、その濃度も加齢とともに低下します。年齢を重ねるにつれて抗酸化の防御力が徐々に衰えるのと、並行しているのです。

実際、エルゴチオネインを「長寿ビタミン」や「ストレスビタミン」に分類しようと提案している研究者もいます。

ただ、「ビタミン」という言葉には少し紛らわしいところがあります。

従来、ビタミンとは体が正常に成長し、機能するために少量を必要とする必須の有機化合物を指します。その多くは、不足するとはっきりした欠乏症が起こることから発見されました。たとえば、ビタミンAが不足すると夜盲症、ビタミンCが不足すると壊血病、ビタミンDが不足するとくる病になります。

エルゴチオネインも、それに似ています。

ほぼすべてを食事から摂取しているからです。

ただ、十分な量がない場合目立つ欠乏症ではなく、ゆっくりと気づかないうちに進む加齢に伴う病気のリスク上昇として現れるのではないか、と考えられています。そのため、何十年もの間、その重要性がほとんど見過ごされてきたのかもしれません。

本来よりも少し速く老化している人に気づくより、壊血病に気づくほうが、ずっと簡単です。

最終的にどのように分類されるにせよ、エルゴチオネインは人間の体内で重要な役割を担っているようです。

注目すべきことに、エルゴチオネインは、強い酸化ストレスにさらされる組織などに蓄積します。血液、肝臓、目の水晶体、さらには精液にも見られます。体が最も保護を必要とする場所に、積極的に集めていることがうかがえます。

脳も例外ではありません。

  • エルゴチオネインは脳内に移行します。実験室での研究では、酸化ストレスから神経細胞を保護することが示されています。

  • アルツハイマー病の病理学的な特徴の一つである、アミロイドβの毒性に対しても、保護作用が示されています。

たとえば、ある研究では、アミロイドにさらされたマウスに、予想どおり学習や記憶の障害が起こりました。しかし、あらかじめエルゴチオネインを投与されたマウスでは、そうした認知機能の障害が大幅に抑えられました。

では、今回の新しいヒトの研究に戻りましょう。

この研究では、次のことが示されました。

  • 血中エルゴチオネイン濃度が高いことは、認知機能が良好であることと関連していました。

  • 次の複数の指標でも、関連の方向は一貫していました。

  • 脳全体の容積

  • 海馬の容積(海馬は脳の記憶をつかさどる部位)

  • アルツハイマー病のリスク

エルゴチオネインと認知機能に関する論文本文の抜粋抜粋訳:MRIの測定値と関連していた。14種類の代謝物は認知機能との関連が再現され、エルゴチオネインが最大の効果を示した。認知機能に関連する代謝物のパターンは、その後に発症するアルツハイマー病のパターンと対応していた。

エルゴチオネインと認知機能に関する論文本文の抜粋抜粋訳:MRIの測定値と関連していた。14種類の代謝物は認知機能との関連が再現され、エルゴチオネインが最大の効果を示した。認知機能に関連する代謝物のパターンは、その後に発症するアルツハイマー病のパターンと対応していた。

今回は、証拠が一貫した全体像を描いているように見えます。

とはいえ、バイオマーカーが見つかるだけでも面白いのですが、簡単に変えられるものなら、もっと面白い。

そこで研究者たちは、2つ目の問いを立てました。

エルゴチオネインの濃度は、実際には何によって決まるのでしょうか?

サポートメンバーになると、最先端の代謝研究を深掘りする記事を、週3本のペースですべて読めます。毎回、代謝の健康について少なくとも一つは、新しい気づきを持ち帰っていただけるはずです。

ここから先は、StayCurious Metabolismのサポートメンバー向けに、次の内容を掘り下げます。

  • エルゴチオネインの濃度を実際に左右するもの

  • 僕が食事に取り入れている、あるキノコとその調理法

  • StayCuriousでは初めてのレシピも紹介します……。

  • 腸内細菌叢の役割

  • エルゴチオネイン濃度の低さと認知機能の低さに関連する、よく使われる薬

自然界と自分の体のつながりを探るのが好きなら、今はStayCurious Metabolismのサポートメンバーの仲間に加わる良い機会です。最先端の科学研究を読み解くのを楽しみ、健康をより良くする方法をいつも探している仲間が、どんどん増えています。

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英語版StayCurious Metabolism の購読者コメントの和訳

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【編集者より】

本記事は、米国の医師・研究者 Nick Norwitz(MD, PhD)が英語で執筆したニュースレターを、本人の許諾のもとで日本語に翻訳・再構成したものです。お読みいただく前に、3点だけお伝えします。

・記事中で触れる医薬品・成分・用量は、海外で行われた研究や著者の経験にもとづく記述です。日本国内での承認状況や入手可能性とは異なる場合があります。

・内容は研究の紹介であって、特定の製品・成分・治療法をおすすめするものではなく、また個々の読者に対する診断や治療のアドバイスでもありません。

・ご自身の体調や治療方針についての判断は、必ず主治医など医療の専門家にご相談ください。

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