「先生に嫌われているかも」と感じたことはありませんか?

自分の体が、医学の教科書どおりにいかなかったら?僕も、そんな患者になったことが何度もあります。受け身でいるのをやめ、自分の体の謎を解き始めるまでに学んだことをお話しします。ニック・ノーウィッツ(NickNorwitz,MDPhD)
Nick Norwitz 2026.10.14
誰でも

【編集者より】

本記事は、米国の医師・研究者NickNorwitz(MD,PhD)が英語で執筆したニュースレターを、本人の許諾のもとで日本語に翻訳・再構成したものです。お読みいただく前に、3点だけお伝えします。

  • 記事中で触れる研究や診療の経験は、海外の研究や医療の状況にもとづく記述です。日本国内の医療の状況とは異なる場合があります。

  • 内容は研究や著者の経験の紹介であって、特定の製品・成分・治療法をおすすめするものではなく、また個々の読者に対する診断や治療のアドバイスでもありません。

  • ご自身の体調や治療方針についての判断は、必ず主治医など医療の専門家にご相談ください。

***

医学部で教わった言葉のなかに、どうしても好きになれないものがあります。

「ひづめの音を聞いたら、シマウマではなく馬を思い浮かべなさい」

考え方は単純です。いちばんよくある原因が、たいていは正しい診断につながるということです。

自分が馬なら、それでうまくいきます。でも、シマウマだったら、たまったものではありません。

よくあるパターンに当てはまらないと、まともに取り合ってもらえなかったり、誤った診断を受けたりすることがあるからです。診断を間違えられれば、治療も間違ったものになりかねません。

残念ながら、僕はどうもシマウマになるのが得意なようです。

英語表記の図を日本語訳したものです。

英語表記の図を日本語訳したものです。

でも、これを読んでいる人のなかにも、シマウマがいるはずです。

医師にも説明できない症状を経験したことがあるかもしれません。医師によって正反対の助言をされたことがあるかもしれません。あるいは、診察を終えたあとも戸惑いが残り、まともに取り合ってもらえなかったと感じたり、自分の健康に関わる大切な何かを、みんなが見落としているのではないかと思ったりしたことがあるかもしれません。

僕にも、そういう経験があります。一度や二度ではありません。

珍しい病気や体の状態と向き合うなかで、すべての患者さんに知ってほしいと思うことを学びました。自分の健康問題を解決するうえで、自分自身にできることは、想像以上に大きいのです。

しかも、主治医にとって最悪の患者にならずに、それを実践する方法があります。

ただ、その前に、僕がどうしてシマウマに特別な親近感を抱いているのか、お話しさせてください。

初めて「シマウマ」になったとき

たとえば、18歳のときに骨粗しょう症(英語・購読者限定*日本語版は作成中)になりました。

診断がついたのは20歳になってからです。そのときに示された説明も、僕には腑に落ちませんでした。「スポーツにおける相対的エネルギー不足(RED-S)」だというのです。要するに、運動量に見合うだけのエネルギーを食事で摂れていない、と言われました。

まだ発達しきっていない当時の僕の頭でも、それは考えにくい説明に思えました。

冬のランニングから帰ると、ヌテラを瓶の半分も溶かして作ったチョコレートスムージーを、ほとんど一気飲みしていました。BMIは正常。甲状腺機能もテストステロン値も正常でした。それでも、あまりに変わった症例だったため、RED-Sが「除外診断」として残ったのです。

「除外診断」は、実際に使われている用語です。

選択式の問題でほかの答えを消していき、残ったのはこれだから、きっとこれだろう、と判断するようなものです。

医師たちは馬を探していました。でも、僕はシマウマだったのです。

原著の図表をもとに、英語表記のみ日本語訳しています。

原著の図表をもとに、英語表記のみ日本語訳しています。

かなりの時間をかけて独学を続けた末に、骨が物理的な負荷にどう反応するかに影響する、珍しい遺伝子変異を自分が持っていることがわかりました。マラソンを始めたとき、僕の骨は、繰り返し加わる衝撃に十分な速さで適応できず、壊れ始めていたようなのです。

ありがたいことに、この問題は今では解決しています。

2度目の「シマウマ」体験

ところがその後、僕の名前がより広く知られるきっかけになったともいえる、もう一つのシマウマの症例が現れました。コレステロールです。

その間に、潰瘍性大腸炎も発症しました。こちらは、どちらかといえば馬の診断でした。1日に12回ほどお尻から出血するなど、見逃しようのない典型的な症状があったからです。

そして、大腸内視鏡検査で、大腸に潰瘍があることが確認されました。

でも、ケトジェニックダイエットを始めると、潰瘍性大腸炎は寛解し、その状態が今も続いています。こうして、馬になったと思ったのもつかの間、あっという間にシマウマへ逆戻りしました。

これはすばらしい。……ただし、コレステロール値が天井を突き抜けました。空へ、宇宙へ、冥王星の向こうへ。今ごろは、たぶんアルファ・ケンタウリの近くにいると思います。

冗談はさておき、僕のLDLコレステロール値は574mg/dL、総コレステロール値は705mg/dLに達しました。あまりに高かったため、従来の医学教育を受けた医師や循環器専門医のほぼ全員から、すぐに治療を受けなければ「間違いなく」若くして心筋梗塞を起こす、と言われました。   原著の図表をもとに、英語表記のみ日本語訳しています。

これまで、僕ほど高いLDL値を引き起こす原因として知られていたのは、ホモ接合体性家族性高コレステロール血症という、まれな遺伝性の病気だけでした。幼児の動脈にプラークができたり、わずか6歳の子どもが心筋梗塞を起こしたりすることもある病気です。

それなのに、命に関わるとされたLDL値のまま7年間過ごしたあとも、冠動脈の画像検査で測定できるプラークはゼロでした。本当に、まったくなかったのです。石灰化したプラークだけでなく、軟らかいプラークも、石灰化したプラークもゼロ。専門家による読影でも、AIを用いた定量評価でも、何も見つかりませんでした。0mm³です。

<Total Plaque Summary → 総プラーク量の概要> <Total Plaque Volume → 総プラーク体積> <Patient Percentile → 患者のパーセンタイル順位> <Plaque Types → プラークの種類> <Calcified → 石灰化プラーク> <Non Calcified → 非石灰化プラーク> <Low Attenuation → 低吸収プラーク> <LM → 左冠動脈主幹部> <LAD → 左前下行枝> <LCX → 左回旋枝>

<Total Plaque Summary → 総プラーク量の概要> <Total Plaque Volume → 総プラーク体積> <Patient Percentile → 患者のパーセンタイル順位> <Plaque Types → プラークの種類> <Calcified → 石灰化プラーク> <Non Calcified → 非石灰化プラーク> <Low Attenuation → 低吸収プラーク> <LM → 左冠動脈主幹部> <LAD → 左前下行枝> <LCX → 左回旋枝>

またしても、シマウマです。通常の臨床で予想される経過には、すんなり当てはまらない結果でした。

ただ、個々の診断やシマウマの症例を解き明かすことが、このレターの本題ではありません。

「先生に嫌われているかも」と感じたことはありませんか?

では、本題に入りましょう。サムネイルに載せた、少し挑発的な言葉に注目してください。「僕は主治医たちに嫌われている」

決まった診療の手順に当てはまらない患者が来たら、どうすればよいのでしょうか。その症例を解くのはパズルのようなもので、時間がかかります。ところが、多くの臨床医に足りないのは、まさにその時間なのです。

3,000ピースのジグソーパズルを渡して、15分で完成させてほしいと頼む場面を想像してみてください。無理なお願いです。

並々ならぬ努力と、私生活の大きな犠牲を払って、どうにかこうした症例を解く時間を見つける医師もいます。診る患者数を減らし、シマウマをじっくり調べられるよう、診療の仕組みを整えている医師もいます。

でも、僕があまりに何度も出会ってきた、別の反応もあります。身構えてしまう、という反応です。

患者が型に当てはまらないと、いら立ち、ときには怒りさえ感じる医師もいます。患者は難しい質問をします。その質問は、医師が知っていることの限界や、短い診察時間で無理なく対応できる範囲に踏み込んでくるのです。

ただ、公平を期すなら、そのいら立ちが必ずしも悪意から生まれているとは思いません。

苦しんでいる人を目の前にしながら、「この人をどう助ければいいのかわからない」と気づいてしまう。その、ひどくつらい経験から生まれることもあるのだと思います。

いら立ちは、確かにあります。ただ、ときにその表し方がうまくないのです。

僕は、40年の経験を持つベテランの臨床医として、こんな話をしているわけではありません。そもそも、まだ40年も生きていません。さまざまな医療者と接してきた、一人の患者として話しています。

でも、なぜこんな話をしているのでしょうか?

自分の体験談を延々と聞かせたいからではありません。ここまでの話のどこかに、自分と重なるものを感じた人がいるのではないかと思うからです。

決まった診療の手順には、うまく当てはまらなかったのかもしれません。

質問をしても、十分に答えてもらえなかったと感じたのかもしれません。診察を終えたあとも戸惑いが残ったり、まともに取り合ってもらえなかったと感じたり、ただ納得できなかったりしたのかもしれません。

よくある問題です。でも、解決の道はあると思います。

僕なりに考え、実践してきた答えは、自分の健康問題を解決するうえで、自分自身にできることはとても大きい、と気づくことです。医師より医学に詳しいからではありません。主治医には決して持てないものを、自分は持っているからです。時間です。

読んで、調べて、自分の体の謎を少しずつ解き明かしていくことができます。気が遠くなるように感じるかもしれません。でも、そこに喜びを見いだすこともできると、僕は心から思っています。それも、このニュースレターを書いている理由の一つです。体の仕組みを探究する喜びを分かち合い、自分の体も含めた生物学に、もっと好奇心を持つための手がかりを届けたいのです。

この見方は、「先生に嫌われている」という気持ちを解きほぐす助けにもなると思います。

主治医は、本当は患者を嫌っているわけではありません。

質問されることさえ、たぶん嫌ってはいないのです。医師をつらくさせるのは、苦しみながらも良くならない人、希望を失いつつある人を見ることです。助けたいのに、制度の制約や今の知識の限界のために、ときには助けられない。そのことなのです。

答えは、医師の言いなりになることではありません。医師を退けて、自分で自分を診療しようとすることでもありません。医師のパートナーになることです。

では、自分はシマウマかもしれないと思ったとき、よいパートナーになるとは、具体的にどういうことでしょうか?

「QUOTE」という3つの行動を試してみてください。質問する、観察する、検証する、です。

質問する。主治医に尋ねたいことを、自分のなかで整理してみましょう。まずは、こんな質問から始めてみてください:

  • 「今起きていることをいちばんよく説明できるのは、どのような診断だとお考えですか?その根拠は何ですか?」

  • 「その診断では、説明がつかない点はありますか?」

  • 「ほかに検討した診断を、2つか3つ教えていただけますか?」

  • 「私の症例には、通常の説明に確信を持ちにくくなるような、珍しい点がありますか?」

  • 「どのような情報があれば、お考えが変わりますか?」

  • 「私のような珍しい症例を多く診ている先生に、セカンドオピニオンを求めてもよいでしょうか?」

  • 「次の診察までに、何を継続して記録しておくとよいでしょうか?」

観察する。次の診察までの時間を使って、自分に何が起きているかに注意を向け、記録しましょう。それはデータです。どんなに厳密なランダム化比較試験にもない力を持つデータです。ほかでもない、自分自身についての情報だからです。自分の症例を解くうえで、その人にしか当てはまらない手がかりを与えてくれることがあります。

*ランダム化比較試験を簡単説明すると、参加者をくじ引きのようにランダムに2つのグループに分けて、片方には試したい治療、もう片方には別の治療(または偽薬)を行い、どちらが本当に効くかを公平に比べる実験のことです。ゴールドスタンダードと言われる、もっとも強いエビデンスとして認められている研究です。

検証する。その方法はさまざまです。生活習慣の見直し、食事、運動、サプリメント、薬などが考えられます。大切なのは、何かを取り入れたら漫然と続けるのではなく、その取り組みを、評価できるものとして考えることです。

この点が、ときどき忘れられてしまうように思います。患者は処方箋を受け取ると、それを暗黙の約束のように受け止めます。「これは一生、あるいは先生にやめていいと言われるまで、飲み続けるのだろう」と。でも、そういう考え方であるべきではありません。どんな取り組みにも、理由と目標、そして見直しの計画が必要です。そのうえで、繰り返していきます。質問し、観察し、検証する。観察から新しい質問が生まれ、また一巡が始まるのです。

質問し、観察し、検証して、また戻る。この繰り返しは、単なる方法ではありません。科学のプロセスを自分の体に応用することです。それが、僕を救ってくれました。

自分のシマウマの症例を解決できたのは、僕が主治医たちより賢かったからではありません。自分の体への好奇心を手放さず、どんな医療機関も与えてはくれないものを持っていたからです。時間と、その時間を使おうとする意志です。

それは、ここを読んでいる人にもあります。

だから、いちばん持ち帰ってほしいのは、このことです。シマウマであることは、呪いではありません。僕は長い間、呪いだと思っていました。でも、診断を難しくしているその特徴こそが、自分にとって最も大切な一人の患者、つまり自分自身について、世界でいちばん詳しい専門家になるきっかけにもなります。自分の症例を解決したいという思いも、自分を気にかける気持ちも、自分以上に強く持つ人はいません。

主治医はパートナーです。でも、自分の体の謎を追う探偵になれるのは、自分自身です。それは重荷ではありません。うまく取り組めば、人生で出会うことのなかでも、とりわけ興味深く、希望に満ち、静かな喜びを感じられるものの一つになります。

だから、#StayCurious。好奇心を持ち続けてください。とくに、自分自身に。シマウマかもしれません。でも、その症例は、これまで誰かに言われてきたよりも、ずっと解決に近づけるものかもしれません。

*今日も読んでくださって、ありがとうございます。いつも、時間を割いて関心を寄せてくださることに、心から感謝しています。まだご覧になっていなければ、最近、僕のこれまでの歩みとStayCuriousの始まりを紹介する10分間の動画を公開しました。動画で僕のことをもう少し知りたいと思ったら、ぜひご覧ください。いつもありがとうございます。

*医療に関する免責事項:この内容は、教育および情報提供のみを目的としており、医療上の助言ではありません。病気の診断、治療、治癒、予防を目的とするものではなく、資格を持つ医療専門家による個別の医療上の助言に代わるものでもありません。薬、サプリメント、食事、その他の健康管理に関わることを変更する前には、必ず医療専門家に相談してください。

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