集中できないのはなぜ?

注意力の問題に見えて、実は睡眠の問題が隠れている場合がある。新しい研究は、そんな可能性を示唆しています。脳画像、ADHD治療薬、体内時計から、集中力について何がわかるのでしょうか。ニック・ノーウィッツ(Nick Norwitz, MD PhD)
Nick Norwitz 2026.10.11
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どうしても集中できない。そんな日を経験したことはありませんか?

前の晩、あまりよく眠れなかったのかもしれません。文章を書こう、本を読もう、プレゼン資料を作ろう、大事な仕事に取りかかろうと腰を下ろしても、すぐに気が散ってしまいます。

スマートフォンを確認する。Instagramをスクロールする。YouTubeを開き、動画から動画へと渡り歩く。気づけば1本の動画にさえ数分と集中できず、別のものに移りたくなっています。

そんな自分にいら立ちながらも、つい続けてしまう。そうして、何分も、何時間も過ぎていきます。

僕にも、そんな日があります。多くの人と同じように、まるでびっくり箱のように突然やってきて、生産性をすっかり台無しにしてしまうのです。

現代では、集中力の悩みは珍しくありません。

あまりによくあることなので、集中できないときに「また自分のADHDが顔を出した」などと、冗談めかして言う人も少なくありません。

ところが、意外なことに、その冗談は本質の一端を捉えているのかもしれません。

英文の和訳

英文の和訳

Cell誌に発表された興味深い研究は、注意力の問題やADHDと捉えられているケースの少なくとも一部が、実は、その背後に隠れた睡眠の問題を反映している可能性を示唆しています。

誤解のないように言うと、ADHDが実在しないという意味ではありません。ただ、この研究結果は、考えさせられる可能性を浮かび上がらせます。

人によっては、『注意力の問題』の根本原因が、主に注意力そのものにあるわけではないとしたら?

今回は、この考えを支えるデータと、新たに明らかになった脳の仕組みを見ていきたいと思います。

ADHDのある人にも、ADHDのある子どもを育てている人にも、どれだけ頑張っても集中できず、もどかしい思いをする日が時々あるという人にも、役立つかもしれない知見が見えてきます。

思っていた働きとは違う薬

話の始まりは約100年前。現在使われている中枢刺激薬の発見までさかのぼります。

アンフェタミン類の覚醒を促す作用が報告されたのは1929年です。1937年には、チャールズ・ブラッドリーという医師が、当時「行動に問題のある子どもたち」と呼んでいた子どもを、この薬が落ち着かせ、集中させるようだと気づきました。薬が脳の注意機能を高めているのだと、単純に考えられたのです。

この考え方はわかりやすく、観察された行動ともつじつまが合っていたため、そのまま定着したようです。

メチルフェニデート(リタリン、コンサータ)やリスデキサンフェタミン(ビバンセ)などは、全年齢を合わせた米国人の6%超に処方されています。実際、注意力を要する課題での行動を改善するように見えます。

とはいえ、医学文献には、いくつかの矛盾めいた現象も見られます。

ここでは2つ挙げましょう。

パラドックス①:課題の成績は、逆U字型の曲線を描きます。中枢刺激薬によって最も改善するのは、もともとの成績が低い人であることが多く、成績の高い人では改善しなかったり、かえって悪くなったりします。

パラドックス②:これは「刺激薬」ですよね。それなのに、ADHDのある人の多動性を治療するためによく使われます。おかしくありませんか? 多動性を治療するのに、なぜ刺激する薬を使うのでしょうか?

まるで、眠るための薬としてエスプレッソを3ショット処方するようなものです。

でも今では、僕の中でつじつまが合いました。読み進めれば、きっと納得できると思います。ある研究チームが、高度な画像技術を使って、中枢刺激薬が人の脳の中で実際に何をしているのかを調べたからです。

そこで見つかったのは、予想していたものとは違いました。

中枢刺激薬は、「注意」のネットワークを強めることで作用していたのではありません。別のものに働きかけていたのです。(それが何なのかは、もう少し集中して読んでいただければわかります……)

まず、研究チームが何をしたのかを見てみましょう。

思春期の脳と認知の発達を追う研究に参加した12,000人近くの子どもから、機能的MRIの画像を取得しました。これは、いわば脳活動を高解像度で捉えた動画です。さらに、結果をより広く一般化できるか確かめるために、成人でも中枢刺激薬を服用している状態と、していない状態の脳画像を調べました。

問いは単純でした。中枢刺激薬を服用すると、実際に変化するのは、どの脳ネットワークなのか?

何がわかったのでしょうか?

中枢刺激薬は、脳の感覚・運動領域(a、紫色)の結びつきを強めました。また、報酬を動機とする学習を駆動する、重要な刺激を選び出すネットワークにも変化をもたらしました(b、黒色)。

つまり、覚醒度(a、紫色)と意欲(b、黒色)のアクセルを踏んでいたのです。

一方、子どもでも成人でも影響を受けなかったのは、従来から「注意」を担うとされてきたシステム(c、黄色)でした。薬が修復しているはずだと、これまでの説明で想定されていた、まさにその回路です。

些細な、学問上だけの違いに思えるかもしれませんが、そうではありません。脳に働きかける何かが、注意力、覚醒度、意欲のどれに影響しているのかは、間違いなく気に留めるべきことです。どの経路を動かしているのかを理解することが、実践的な知見や具体的な方法につながるからです。

なぜそう言えるのか。残念ではあるものの、意外ではない数字から見ていきましょう。

英語表記の図を日本語訳したものです。 

英語表記の図を日本語訳したものです。 

睡眠不足、それともADHD?

研究チームは、年齢に応じた推奨睡眠時間を確保していた子どもが、わずか48%だったことに気づきました。十分な量の質のよい睡眠を取れている成人の割合は、おそらくもっと低いでしょう。

そこで、中枢刺激薬の使用が脳の結びつきに及ぼす影響を、よく眠ることの影響と比較しました。すると、中枢刺激薬を使った睡眠不足の子どもの脳は、その結びつきの状態が十分に眠った子どもと実質的に見分けがつかないほどになっていました。

念のために言うと、薬が睡眠のあらゆる働きを代わりに果たすという意味ではありません。ただ、脳の覚醒系と報酬系に限れば、前の晩に適切な量の睡眠を取ったときと似た状態に、機能的MRI(fMRI)上の見え方も、その働きも近づいたのです。

学校の成績も良くなりました。ただし、すべての子どもでそうなったわけではありません。

  • 睡眠不足の子どものうち、中枢刺激薬を服用していた子どもは、服用していなかった子どもよりも成績が有意に良く、十分に眠っていた子どもと同程度でした。

  • 一方、十分に眠っていた子どもでは、中枢刺激薬を服用しても成績の向上は見られませんでした。

少し立ち止まって考えてみてください。ここから読み取れることは、受け止めにくくても重要です。

中枢刺激薬を日常的に服用している子どもの無視できない割合で、その薬は、少なくとも部分的には、足りていない睡眠の代わりをしているのかもしれません。

ここは慎重に伝えたいところです。本当にADHDのある患者さんには、いわゆる「中枢刺激薬」が役立ちます。ただし、そのような患者さんは、これらの薬を処方されている子どもの半数未満です。実際にADHDのある子どもの薬を捨てて、午後8時に無理やりベッドへ入れればよい、という話ではありません。

心配なのは、適切な患者さんに薬が効かないことではありません。その薬が、何を人知れず補っているのかということです。

慢性的な睡眠不足を中枢刺激薬で埋め合わせていると、失われた睡眠の代償を何年も背負い続けることになりかねません。気分の問題も、細胞レベルのストレスも、その他もろもろもです。

ここで当然の疑問が浮かびます。
睡眠が根底に隠れている問題なのだとしたら、そもそも、なぜこれほど多くの人の脳が睡眠不足なのでしょうか?

その答えを知るには、脳の中にある時計の話をする必要があります。

サポートメンバーは、最先端の代謝研究を掘り下げる記事を全文お読みいただけます。毎回、代謝の健康について少なくとも1つは新しい発見を持ち帰れるはずです。

この先は、StayCurious Metabolismのサポートメンバー向けに、次の内容を掘り下げます。

  • 脳の中心にある時計と、そのリセット方法。

  • この分野を悩ませてきた主なパラドックス。

  • 刺激が強すぎると、なぜ課題の成績が落ちることがあるのか。

  • 多動性のある人に、なぜ中枢刺激薬が役立つのか。

最後に、どうしても集中できない日に僕が実際にしていることも含め、日常で使えるポイントにまとめます。

ADHDのある人や、その子どもを育てる人だけの話ではありません。時々集中できずに困る、あらゆる人に関係する話です。おそらく、読者のほぼ100%が当てはまるのではないでしょうか。

StayCurious Metabolismのコミュニティに加わるなら、今もよいタイミングです。もっとも、この先を読み続けられるだけの集中力が残っていればですが……。

英語版StayCurious Metabolism の購読者コメントの和訳

英語版StayCurious Metabolism の購読者コメントの和訳

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【編集者より】

本記事は、米国の医師・研究者 Nick Norwitz(MD, PhD)が英語で執筆したニュースレターを、本人の許諾のもとで日本語に翻訳・再構成したものです。お読みいただく前に、3点だけお伝えします。

・記事中で触れる医薬品・成分・用量は、海外で行われた研究や海外での使用状況にもとづく記述です。日本国内での承認状況や入手可能性、承認された使用目的とは異なる場合があります。

・内容は研究の紹介であって、特定の製品・成分・治療法をおすすめするものではなく、また個々の読者に対する診断や治療のアドバイスでもありません。

・ご自身の体調や治療方針についての判断は、必ず主治医など医療の専門家にご相談ください。

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