ケトン食と地中海食が真っ向勝負。勝ったのはケトジェニックでした。

ケトジェニックダイエットが、地中海食と低脂質の植物中心食を相手に、6か月間の厳密な試験で真っ向から比べられました。減った体重はほぼ同じ。それでも、代謝の面で意外な差が出ました。ニック・ノーウィッツ(Nick Norwitz, MD PhD)
Nick Norwitz 2026.09.17
誰でも

心臓と肝臓にとって、より健康なのはどちらでしょう。ベーコンと卵か、それともオートミールとキヌアか。

奇妙な問いに聞こえますし、「健康的な食事とは何か」という世間の常識にも、たしかに逆らっています。

ところが、トップクラスの科学誌に発表されたばかりの6か月間のランダム化比較試験が、これらの食事のいくつかのバージョンを真っ向から比べました。

研究チームが比べたのは、次の3つです。

  • 低炭水化物・高脂質のケトジェニックダイエット(炭水化物からのカロリーは4%)

  • 地中海食(炭水化物からのカロリーは50%)

  • 低脂質の植物中心食(炭水化物からのカロリーは70%) 

英文の和訳

英文の和訳

栄養学の試験としては、異例なほど厳密でした。

研究チームは肥満の参加者を集め、すべての食事を提供したうえで、どちらの食事法でも同程度の減量が起こるように設計し、6か月間追跡しました。 

MRIやDEXA検査、さらに、ふつうのクリニックでは受けられない高度な代謝負荷試験まで、代謝に関する検査を一通り行っています。

論文のタイトル:「食事の主要栄養素(マクロ栄養素)組成が減量に対する心血管・代謝反応に及ぼす影響:無作為化臨床試験

概要: Petersenらは、代謝異常を伴う肥満の人において、ケトジェニック食によって10%の減量を達成した場合、同程度の減量を地中海食または超低脂肪の植物性食品中心の食事によって達成した場合と比べて、肝臓の代謝機能および肝内中性脂肪量がより大きく改善することを報告しています。〈Energy from carbohydrate → 炭水化物由来のエネルギー〉〈Energy from fat → 脂質由来のエネルギー〉

概要: Petersenらは、代謝異常を伴う肥満の人において、ケトジェニック食によって10%の減量を達成した場合、同程度の減量を地中海食または超低脂肪の植物性食品中心の食事によって達成した場合と比べて、肝臓の代謝機能および肝内中性脂肪量がより大きく改善することを報告しています。
〈Energy from carbohydrate → 炭水化物由来のエネルギー〉〈Energy from fat → 脂質由来のエネルギー〉

そして勝者は……

それでは、結論を先にお伝えします。

心臓・代謝に関わるいくつかの重要な指標で、低炭水化物・高脂質のケトジェニックダイエットが勝ちました。

3つの食事はどれも、ほぼ同じだけ体重を減らしました(およそ10%の減量)。それでも、ケトジェニックダイエットのほうが大きく下げたのは、次の項目です。

  • 肝臓の脂肪

  • 血糖値

  • 中性脂肪(血液中の脂肪)

  • 炎症の指標

  • インスリン抵抗性のスコア

著者ら自身は、こう結論づけています。

「これらの結果は、代謝的に不健康な肥満のある人において、超低炭水化物食が(地中海食や超低脂質食と比べて)より大きな心臓・代謝上の利益をもたらすことを示している」

肝臓が作る新しい糖と脂肪が、より少ない

肝臓のはたらきにも目を向けてみましょう。代謝の状態が悪いと、肝臓は余分なブドウ糖と余分な脂肪を作りすぎてしまいます。脂肪肝が高血糖や高い中性脂肪の一因となるのは、これも理由の一つです。

図で見えるのは、ケトジェニックダイエット(赤)では、新しく作られる「内因性」のブドウ糖も、新しく作られる脂肪(de novo 脂肪酸合成)も、どちらも劇的に下がっている、ということです。炭水化物を減らしたことが、参加者の代謝に良い波及効果をもたらしたことを示しています。

〈De novo lipogenesis → de novo 脂肪酸合成〉〈Endogenous glucose production → 内因性糖放出〉〈Before → 減量前〉〈After → 減量後〉〈Percent change → 変化率(%)〉〈% contribution to TG-palmitate → TG-パルミチン酸への寄与率(%)〉〈Very-Low-Carbohydrate Ketogenic → 超低炭水化物ケトジェニック食〉〈Mediterranean → 地中海食〉〈Very-Low-Fat Plant-Forward → 超低脂肪・植物中心食〉

〈De novo lipogenesis → de novo 脂肪酸合成〉〈Endogenous glucose production → 内因性糖放出〉〈Before → 減量前〉〈After → 減量後〉〈Percent change → 変化率(%)〉〈% contribution to TG-palmitate → TG-パルミチン酸への寄与率(%)〉〈Very-Low-Carbohydrate Ketogenic → 超低炭水化物ケトジェニック食〉〈Mediterranean → 地中海食〉〈Very-Low-Fat Plant-Forward → 超低脂肪・植物中心食〉

リポタンパク質に基づくインスリン抵抗性スコア(LP-IR)が21ポイント改善

もう一つだけ代謝の指標を取り上げます。ケトジェニックダイエットでは、リポタンパク・インスリン抵抗性(LP-IR)が21ポイント改善しました。地中海食では7ポイント、低脂質食では3ポイントの改善にとどまっています。

これが、なぜ大事なのでしょうか。

LP-IRは、心血管リスクを評価するうえで非常に強力な指標です。実際、ほかの大規模なコホート研究では、LP-IRはLDLコレステロールよりも、心血管リスクとおよそ14倍も強く関連していました(英語・購読者限定 *日本語版は作成中)。

英語の和訳

英語の和訳

*冠動脈疾患のハザード比を、インスリン抵抗性スコア(LP-IR)とLDLコレステロールで比べたものです。インスリン抵抗性はLDLをはるかに上回り、相対リスクにおよそ14倍の差がありました。

ここでの要点を、シンプルに言い直します。もし炭水化物が少なく、コレステロールと飽和脂肪酸が豊富な食事をとって、その結果インスリン抵抗性スコア(LP-IR)が大きく改善し、その一方でLDL、つまり「悪玉」コレステロールが少しだけ上がったとしても、全体としては肝臓の健康・心臓の健康・代謝の健康は改善している、と考えるのが妥当だ、ということです。

とはいえ一つ付け加えると、このランダム化比較試験では、LDLやApoBを他より大きく改善した食事はありませんでした。

ただ、この研究がほとんど滑稽に見えてくるのは、ここからです。

***

【編集者より】

この記事は、海外で発表された研究をもとにした、Nick Norwitz氏による解説です。
内容は情報提供を目的としたもので、医学的な助言ではありません。
食事や治療を変える際は、必ずご自身の医療機関にご相談ください。

***

それぞれのグループは、実際に何を食べていたのか

方法(methods)のセクションを見ると、研究チームはこう報告しています。

  • ケトジェニックダイエットのグループが食べていたのは、ベーコンとソーセージ入りのオムレツ、チーズをきかせた牛肉、プルドポーク、ピーカンナッツをまとわせたティラピアなど。

  • 地中海食に含まれていたのは、チキンのペストパスタ、豆とコーンを合わせたキヌア、ミネストローネなど。

  • 低脂質・植物中心食に含まれていたのは、りんごとバナナのオートミール、フルーツスムージー、レッドビーンズ&ライスなど。

つまりこの、厳密で、減量をそろえた、6か月間のランダム化比較試験では、ベーコン・ソーセージ・チーズ入りの牛肉を含む食事のほうが、私たちがふだん「心臓に良い」と呼んでいる食品を中心に組んだ食事よりも、心臓・代謝の健康で良い結果を出した、ということになります。

なかなか刺激的な結論です。

英語の和訳

英語の和訳

LDLとApoBはどうだったのか

締めくくって私の本当の結論をお伝えする前に、LDLとApoBの話をしておきます。

世間の常識では、飽和脂肪酸をおよそ5倍、食事由来のコレステロールをおよそ50倍もとれば(ケトジェニックダイエットの参加者は、植物中心食の参加者と比べて実際にそうしていました)、LDLコレステロールとApoBは必ず上がるはずだ、とされています。

そうですよね。

違います。

  • ケトジェニックダイエットでは、ApoBは6mg/dL下がりました。

  • 植物中心食では、9mg/dL下がりました。

この差は、統計的に有意ではありませんでした(p=0.24、表1)。

なぜでしょうか。

答えは、参加者の出発点にあります。この人たちは、BMIがおよそ40kg/m²、体脂肪率がおよそ45%のところから始めていました。低炭水化物食では、開始時のBMIがLDLの反応を大きく左右するようです。BMIが高めの人は、低炭水化物にしてもLDLやApoBが変わらないか、むしろ下がる傾向があり、今回の新しい試験でもそれが見られました。

私と同僚は、この関係を以前ランダム化比較試験のメタアナリシスで報告しており、個々人の反応はもちろん違いうるものの、これは文献全体でおおむね一貫しているようです。

原著の図表をもとに、英語表記の日本語訳にしています。 

原著の図表をもとに、英語表記の日本語訳にしています。 

なぜ痩せている一部の人では、低炭水化物食でLDLが大きく上がりうるのか。もっと深く知りたい場合は、私たちの「リピッドエネルギーモデル」についての記事も読めます。

ただ、より大きな要点は、食事から入ってくるものは代謝の真空のなかで働くわけではない、ということです。

体組成や代謝の状態も含めた、出発点となる自分の生理状態が、まったく同じ食事介入に対して、検査値がどう反応するかを左右しうるのです。

つまり、高脂質のケトジェニックダイエットと低脂質の植物中心食が、LDLとApoBに同程度の変化が見られたとしても、それは矛盾ではありません。重要なのは、代謝の状態や背景なのです。

本当に重要なポイントは? 

このレターで最も重要なポイントなので、ここでは「代謝の状態や背景」について、さらに掘り下げていきましょう。

ここからは、肥満の生物学についてもう少し説明します。とくに、なぜ肥満とインスリン抵抗性が、肝臓による新しい糖と脂肪の産生を後押しするのか、そして、その実際的な意味についてです。

起きているのは、こういうことです。

  • 肝臓には、すでに脂肪が溜まりすぎています。インスリン感受性が損なわれ、入ってくる炭水化物を処理しにくくなっています。

  • そこで炭水化物を食べると、それはブドウ糖に分解され、血液中に入ります。

  • そのブドウ糖を処理するために、インスリンが上がります。ふだんインスリンは、ブドウ糖を血液から細胞へ運び込んで使ったり蓄えたりするのを助け、肝臓での新しいブドウ糖の産生を止めます。ところが……

  • インスリン抵抗性が、じゃまをします。ブドウ糖は処理しにくくなり、インスリンはさらに高くまで上がり、すでに負荷のかかったシステムが、入ってくる燃料をさばききれなくなります。

  • 肝臓はさらに、その炭水化物の多くを新しい脂肪に変えてしまいがちです。これはde novo 脂肪酸合成と呼ばれる過程で、その間もインスリンの働きは、新しい糖の産生を十分に抑えるにはまだ不十分な状態です。

その結果、こうなります。

  • 糖が、筋肉できちんと処理されない

  • 肝臓が、新しい糖を作りすぎている

  • 肝臓が、新しい脂肪を作りすぎている

最終的に、脂肪は肝臓に溜まり、脂肪と糖が血液中にあふれ出します。私はこれを「ミルクシェイク代謝」と呼んでいます。

英語表記の図を日本語訳したものです。

英語表記の図を日本語訳したものです。

*細かい話が好きな人向けの補足です。インスリン抵抗性は、実はかなり複雑です。すべての臓器や代謝経路が、同じようにインスリンに反応しなくなるわけではありません。そのため、体がそれを補おうとしてインスリンの分泌量を増やすと、ある経路には効きにくい一方で、別の経路には効きすぎるという、ちぐはぐな状態が生まれます。たとえば、筋肉にブドウ糖を血液中から取り込ませる働きが低下すると、ブドウ糖が血液中に残りやすくなり、血糖値が上がります。ところがインスリンには、肝臓に脂肪を作るよう促す働きもあり、こちらはインスリン抵抗性があっても比較的保たれていることがあります。すると、埋め合わせのためにインスリン濃度がさらに上がることで、肝臓での脂肪合成が必要以上に促され、作られた脂肪が血液中へと送り出される可能性があります。つまり、インスリン抵抗性では「インスリンがまったく効かなくなる」のではなく、効きにくくなる経路と、効いたままの経路が混在します。これが、血糖値と血中脂質の両方が上がりうる理由のひとつです。

ここが、直感に反する、実際的なポイントです。

肝臓に脂肪が溜まりすぎているからといって、脂肪を食べるのをやめれば解決する、というわけではありません。

炭水化物の処理がうまくいかないことが代謝上の問題の大きな一部なのであれば、入ってくる炭水化物を大きく減らすことで、体がさばくべきブドウ糖を減らし、インスリンにさらされる量を下げられます。それは、たとえ食事にかなりの量の脂肪が含まれていても、肝臓の脂肪を減らし、インスリン感受性を改善するのに役立ちうるのです。

そして、それこそが今回の試験の結果を説明します。低炭水化物・高脂質のケトジェニックダイエットが——ベーコンやソーセージ、卵が食卓に堂々とのっていても——いずれも炭水化物の多い地中海食や植物中心食に勝った、という結果です。

だからこそ、代謝的な文脈がこれほど大事なのです。

肥満、脂肪肝、インスリン抵抗性のある人にとって、炭水化物を減らすことは、はっきりとした代謝上のメリットがある。人によって、果物やキヌアのような炭水化物の多いホールフード(未加工食品)といった、ふだん私たちが「健康的」と考える食品を削るとしてもメリットはあります。

教訓は、ベーコンが健康的でキヌアが不健康だ、ということではありません。食品は、代謝の真空に入っていくのではない、ということです。食品は、人に入っていきます。しかも、その人の代謝の状態が、方程式をまるごと変えてしまうことがあるのです。

ですから、「いちばん健康的な食事は何か」と問うのはやめましょう。「誰にとって、いちばん健康的な食事なのか」を問い始めてください。もっと言えば、「あなたにとっては?」と。

とはいえ、味の話でいえば、私は迷わずベーコンにキヌアより上の評価をあげます。そこは間違いなく。

この短い無料記事は、速報的な話題を扱った一般公開の特別号でした。ただ、代謝の健康の細かなところまで、もっと深く知りたい方は、StayCurious Metabolismのコミュニティメンバーになることをぜひご検討ください。

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購読者の英語コメントの和訳

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*医療に関する免責事項:この内容は教育・情報提供のみを目的としており、医学的な助言にはあたりません。いかなる病気の診断・治療・治癒・予防を意図したものではなく、資格を持つ医療専門家による個別の助言に代わるものでもありません。薬・サプリメント・食事、その他の健康に関わる変更を行う前には、必ずご自身の医療機関にご相談ください。

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